こんにちは。チョコレートジャーナリスト、ショコラコーディネーターの市川歩美です。
この記事では、「クラフトチョコレート」とは何かを、説明します。
クラフトチョコレートとは何か
クラフトチョコレートとは何でしょうか。
今の時点で、どこにも、なるほどと実感できる記述が見つからないため、チョコレートを見続ける私の立場から、参考にしていただくために記しておきます。
Craft chocolate(クラフトチョコレート)は、カカオ豆を選び仕入れる段階から、最終形のチョコレートになるまで、すべての行程を職人が手がけて作ったチョコレートです。さらに、比較的小規模なメーカーが小ロットで作ったチョコレートのこと。海外ではスモールバッチ、と記されていることもあり、2000年代前半からのアメリカ発のムーブメントを継承しています。
パッケージや店の内装まで、ヴィジュアルセンスが統一され、コンセプトが一貫し、カカオ豆の個性をどう生かしているか、といったチョコレートの味とともに、スタイルや個性、その活動やストーリー、チャレンジにファンがついています。
特徴としては食のプロの方が始めていることがめずらしいことです。エンジニアだった、とか、IT系の仕事だった、という方などが多いです。
ビーントゥバーとクラフトチョコレートの違いは
では、「クラフトチョコレートは、ビーントゥバーチョコレートと、どう違うの?」と考える方も多いことでしょう。
Craft chocolate(クラフトチョコレート)は「比較的小ロットで、小規模なメーカーが作るビーントゥバーチョコレート」でしたね。
一方で、Bean to bar(ビーントゥバー)は、プロセスが名前になっています。つまり、カカオ豆からチョコレートバーまで。大企業であろうと、ヨーロッパで昔からカカオからチョコレートを作っている歴史あるブランドであろうと、カカオ豆からチョコレートを一貫製造していればビーントゥバーである。
一旦、そう整理してみてください。
ビーントゥバー、クラフトチョコレート、の意味が明確に定義されているわけではありませんが、あらゆるブランドを取材し、チョコレート関係者と話しつづけている私(市川歩美)としては、こういう説明となります。
ビーントゥバーチョコレートとは
クラフトチョコレートのポイントは、文字通り「クラフト的」いわゆる「手作業」ゆえの「スモールバッチ(少量生産)」にあります。職人が小さめなアトリエで、手作業で作ります。小規模で小ロットの生産が特徴。
一方で、ビーントゥバーチョコレートとは何か。私が2017年に東洋経済オンラインに寄稿した記事を参考にしてください。
2017年の段階では、ビーントゥバーチョコレート=クラフトチョコレート、という感覚だったかもしれません。
先ほども説明しましたが、ビーントゥバーとは、日本語にすると「カカオ豆からチョコレートバーまで」。製造工程にフォーカスされた言葉で、「カカオ豆からチョコレートまで一貫製造されたチョコ(あるいはスタイル)」をいいます。
カカオ豆からチョコレートを作る。
ということですから、そうなると昔のチョコレートブランドは、どこもカカオ豆からチョコレートを作っていたわけですから、そう珍しいことではないともいえます。
今でもいくつもの大企業が、こだわりのカカオ豆から個性的なチョコレートを作っています。ヨーロッパで19世紀からカカオを仕入れてチョコを作っている歴史的なブランドの代表は「うちは今更表明するまでもなくビーントゥバーですよ」と自信を持っています。
人それぞれ、言葉に抱くニュアンスが違うかもしれませんが、つまり、カカオ豆を仕入れて、自社(個人)でカカオからチョコレートを作っていれば、ビーントゥバー、ということになります。
クラフトチョコレートとビーントゥバーとのニュアンスのちがい
5年くらい前に急にビーントゥバーという言葉が流行り、クラフトチョコレート、という名前はあとから出てきました。私もその違いをあまり考えることはありませんでした。
しかし、ジャーナリストとして、イタリアやフランスの老舗を取材していると、現地で「1800年代からうちはビーントゥバーでそれが当たり前です」などという話を聞くわけです。ヨーロッパの老舗の工房で、アメリカ発のあの独特なムーブメントを思い出すと、そのニュアンスが全く異なり、私は???と違和感を持つことがしばしばありました。
そこで私は、クラフトチョコレートとビーントゥバーチョコレートを意識して使い分けようと思ったわけです。
ビーントゥバーでありクラフトチョコレートである店もある
「ビーントゥバーブランド」であり、同時に「クラフトチョコレートブランド」である専門店は、多いです。クラフトチョコレートメーカーが、ビーントゥバーでないことは、少ないかもしれません。
たいていのクラフトチョコレートブランドは、カカオ豆からチョコレートを作っている気がします。
しかし、反対にビーントゥバーですが、クラフトチョコレートとはいえないかも、というメーカーはいくつもあります。それは大手メーカーや、ヨーロッパの歴史あるチョコレートメーカーなどです。
ちなみにどっちがいい、ということではありません。大手メーカーは食のプロなので、完璧な品質管理と技術、衛生面への安心感があり、何よりお安い。スモールバッチのメーカーは、それぞれの個性がとても面白く、小規模だからこそ作れる実験のようなチョコにファンがつきます。けれども高価なものが多いです。
そういえば、クーベルチュールメーカーもありますね。製菓用チョコレートメーカーも、当たり前ですが、カカオ豆からチョコレートを一貫製造していますから、ビーントゥバーです。ただ、ビーントゥバー、という言葉を「2000年代初頭にアメリカで生まれたクラフトマンシップと素材回帰が原点にある」あのスタイルと考えている人にとっては、ニュアンスが異なりますね。
みなさんも、いろいろなブランドや会社をあてはめて、考えてみてください。
少し、整理のお手伝いになりましたか?
取材していると、ブランドによっては「うちはビーントゥバーといわれたくない」「クラフトチョコレートでもない」みたいな感覚を独自に持っていたりもします。私はそれが面白いと思っています。
定義はなく今も感覚的。これからも時代とともに言葉が生まれては、ニュアンスがかわることでしょう。ただ、チョコレートに向き合う上で、専門外の一般メディアの方、チョコレート関係者の方にも、改めて参考にしていただければ幸いです。
text チョコレートジャーナリスト 市川歩美
(写真は、私が撮影したクラフト的なスモールバッチのチョコレートです)
*参考記事
2020年3月にクラフトチョコレートブランドが集まったフェスティバルがサンフランシスコであり、参加したときの記事です。