こんにちは。チョコレートジャーナリスト、ショコラコーディネーターの市川歩美です。ヴァローナと東京藝大のコラボレーションについて。作者の学生さんたちとお話したことなどもふくめ、この記事で補足します。

何 川(ホ チュエン)/ HE CHUAN

「そう好きじゃなくてもチョコとどこかで出会っちゃう」。ホさんはそう言いました。たしかに、そうだな、と私は思いました。ホさんは、イタリア に住んでいた子供の頃はチョコレートが好きでした。イタリアではフェレロとかバッチとかヴェンキとか食べていたそうです。
大人になってからは、甘すぎるかなと思ってあまり食べなくなった。でも、広場歩いていても、学校へ行く途中も、私たちはチョコレートに出会うーー。リボンがかかったボックスの中はチョコレート。歩いているとチョコに出会うような世界に私たちは生きているのかも。
選んだチョコレート
インスピレーション・フレーズ INSPIRATION FRAISE
源川眞子 / MAKO GENKAWA

学生の頃は、チョコのお菓子やドリンクを買って、楽しく味わっていたけど、大人になったらコーヒーとチョコレートのマリアージュを楽しむようになる。そんな人の成長とともにあるチョコレートを感じる作品です。
源川さんは、デザイン専攻ですが今回はアニメーションを作ろうと思ったそうです。「チョコレートは、単純にチョコの味としか思っていませんでした。でもいろんな味がします。カカオはフルーツからできていると考えると、原点を知って、物体でしかみなかったチョコレートを深くみるようになって」と、今の源川さんは話してくれました。
選んだチョコレート
キダヴォア KIDAVOA 50%
ドゥーブル・フェルマンタシオン(二重発酵)

五十嵐 央 / HIRO IGARASHI

「チョコは多くの人とのやりとり(トレード)によってできていると気づきました」と、五十嵐さん。
「トピックとして知ってはいたけれど、今回学んだことでよりつながりを体で感じた」とも話してくれました。ヴァローナのチョコを65人の人に渡し、かわりになにかを受けとり、その交換してもらったものを描き、並べています。それがこの作品。チョコレートは多くの人の手に渡ってできているとわかったので、チョコを自分にとどめず、人に渡し、私が何かをもらい、その先に関わりたいと考えた五十嵐さん。プロセスがこの作品です。
選んだチョコレート
グアナラ GUANAJA 70%
グラン・クリュ(ブレンド)
力強くもエレガントな苦さの極み、 持続性のある香り
小此木みなみ / MINAMI OKONOGI

小此木さんは、ヴァローナのプロジェクトでチョコレート作りを経験し、子どもの頃を思い出したそうです。ボンボンショコラのようにみえて、素材は木。チョコレートをベースにアクリルの絵の具やバニラエッセンスを混ぜるなどして、シルクスクリーンでプリントされています。
「とりあえず刷ってみるか、と子どもの頃のように、手を動かし、トライアンドエラー。昔、パティシエになりたかった自分が、チョコをつかってままごとしました」。チョコでシルクスクリーンとは!近づいてみると、ちょっと香りがします。
選んだチョコレート
オパリス OPALYS 34%
ミルクと砂糖を絶妙なバランスで配合したごく控えめな甘さが特徴のホワイト・チョコレート。
松下穂香 / HONOKA MATSUSHITA

「私はカカオを知らない」と、松下さん。チョコレートを知っていても、カカオを知らない。カカオはどんなものか、育つ国へいったこともない。そんな「知らない自分」を表したのがこの作品です。
「私はカカオを知らないので、街で、カカオをイメージするものの写真を撮りました。形はSNSでキャッチ。100枚位作ってプリントしました」。チョコレートの消費国に暮らす私たちは、たしかにカカオを情報として、知っていますが、松下さんのように、知らないのです。
選んだチョコレート
バイべ・ラクテ BAHIBE LACTÉE 46%
グラン・クリュ(シングルオリジン) ドミニカ共和国産カカオ
フルーティな酸味と、力強くも繊細な苦み、持続するナッティーなアロマが特徴のミルク・チョコレート。
政井歌 / UTA MASAI

「チョコレートが生まれるテロワールに意識を向けたら、自分のテロワールを考えるに至りました」
政井さんの話を聞いていたら、自分が何で構成されているのか、私も分析したくなりました。心にとめた言葉や写真をまとめたダイアリーの、その中の写真と言葉を、自分のイメージ通りの形に戻すことにより、自分のテロワールを表現したそうです。
実は私も、文字の形や、言葉自体が、私の中の感覚を表しきらないと感じることがあります。なので、この作品をみているのが私はとても楽しいです。
選んだチョコレート
マンジャリ MANJARI 64%
グラン・クリュ(シングルオリジン) マダガスカル産カカオ
華やかな酸味と赤いベリーの風味
張瀅鑫(チョウ エイシン)/ ZHANG YINGXIN

カカオバターの結晶を、擬人化。妖精たちがダンスしているかのようです。カカオバターの結晶はこんなふうなのかも?そんなイメージを膨らませました。
張さんはエコールヴァローナでテンパリングを実際に行い、カカオバターの安定する結晶の形に興味を持ちました。「顕微鏡でみたカカオバターの結晶はこんなふうに尖っていました」。3枚の水彩画を眺めていると、カカオバターがとけるような、そして風味の余韻のようにみえてきます。
選んだチョコレート
オパリス OPALYS 34%
ミルクと砂糖を絶妙なバランスで配合したごく控えめな甘さが特徴のホワイト・チョコレート。
小澤 良奈 / RANA OZAWA

「記憶は、温度を含んでいると思うんですね」と小沢さん。
カカオバターが34.5度で溶けると初めて知って、それが人の体温に近いとわかって、これは偶然かもしれないけど、チョコレートは人に合っている、と思ったそうです。
香りも温度も、その時の自分の記憶に結びついている。あの冬は寒かったな、とか。あの夏はーー。とか。確かにそうです。写真と短いことばが、ぼんやりとした記憶とともに体温や気温まで伝えてくるかのようです。
選んだチョコレート
グアナラ GUANAJA 70%
グラン・クリュ(ブレンド)
力強くもエレガントな苦さの極み、 持続性のある香り
会場の様子
会場には、作者たちのインスピレーションの源となったカカオについての情報も展示されています。

カカオ産地は、どこにあるのか。そしてカカオはどのような工程を経て、おいしいチョコレートになるのか。

VALRHONAのサスティナビリティに関わる活動についても紹介されています。

各作品のそばに、ヴァローナのチョコレートがそっと置いてあるのが、なんだかうれしい!

作者自身が選んだチョコレートをお口の中で溶かしながら、 作品に向き合うのは、想像以上に楽しい体験でした。
場所は日本橋で、 1階にあるギャラリー。自然光が入り、心地が良い空間です。銀座線「三越前」駅から歩いて3分くらい。日本橋界隈をお散歩しながら、どうぞ。
メディア記事も
ヴァローナ×東京藝術大学のコラボレーションについては、メディア記事にもなっています。
RiCe.pressの記事

TASTEMADE SWEETS COLLECTIONの記事
タイムアウト東京のイベント記事

頭で考えるだけでなく、チョコレートやカカオを、感じる時間になると思います。入場無料なのでお気軽に。
イベント概要

text チョコレートジャーナリスト 市川歩美