こんにちは。チョコレートジャーナリスト、ショコラコーディネーターの市川歩美です。2月6日から、日本橋+NARUで、ヴァローナと東京藝大のコラボレーションをお披露目するイベントが始まりました。とてもおすすめ。
入場無料で、作品を鑑賞しながら、ヴァローナのチョコレートも無料で味わえます。(2月17日まで)
この記事では、 この展覧会で、学生たちが発表する作品のタイトル、作者自身による、作品についての解説をまとめます。また、各学生が自分の作品のイメージにいちばん近い、VALRHONAのチョコレートを選んでいます。そのチョコレートも、明記します。
BELOVED CHOCOLATE
何 川(ホ チュエン)/ HE CHUAN
何 川(ホ チュエン)/ HE CHUAN
BELOVED CHOCOLATE(インスタレーション)
遠ざけようとしているはずなのに、なぜかいつもチョコがわたしのそばに現れる。その包装に宿りし悦びと困惑。予想とは裏腹に、制御不能な距離が新たな物語を紡いでゆく。個人的にはチョコは苦手だ。が、それは世間に溢れ愛され貰われ、どういうわけか時折買ってしまうことさえある。
チョコは剥き出しではなく多くは箱入りだ。それを封じ込めるプレゼントの箱は人が人との距離を縮ませたい時に手渡されていくメッセンジャー。
包まれ封じ込められた空間内でしか見ることのできない絵は、場合によっては圧迫や没入へと人を誘う。そこでチョコと共存し巻き込まれていく。ただしその程度は、その人その人で異なる。本作はこの、微妙でなんとも言えないその距離感で悦びと困惑をテーマとする。
選んだチョコレート
インスピレーション・フレーズ INSPIRATION FRAISE
フルーツ・クーベルチュール
力強い刺激が感じられるストロベリーの味わいと、鮮やかなピンク色。
理由:一番好きな果物が苺。それが本来苦手なチョコレートと合わさり、曖昧さを生み出しているのが魅力。またこの力強さが、プレゼントをもらった時の高揚感と似ていると感じる。
チョコと世界が広がる体験
源川眞子 / MAKO GENKAWA
源川眞子 / MAKO GENKAWA
チョコと世界が広がる体験(アニメーション)
幼い頃から抱いてた、変わらない気持ちと変わった私。
気が付けばみんな知っていて。
感じてたもの、甘くて少し苦い。
でもきっとそれだけじゃない。
世界のすべてがちょこっと広がった。
選んだチョコレート
キダヴォア KIDAVOA 50%
ドゥーブル・フェルマンタシオン(二重発酵)
フルーティなバナナのアロマに続く、スパイシーな味わいとモルトの香りによるリッチなカカオの苦み。
理由:甘味も苦味も無理なく楽しめ、追ってくる酸味に刺激を受ける 。香りの広がりと味の複合性がチョコレートの固定観念を覆してくれる。 純粋に、今の私が一番美味しいと感じたチョコレート。
TRADE – カカオはチョコレートに チョコレートは夕陽の写真に -
五十嵐 央 / HIRO IGARASHI
TRADE – カカオはチョコレートに チョコレートは夕陽の写真に – (行為の記録/アートブック)
五十嵐 央 / HIRO IGARASHI
手元にある1枚のチョコレート。
これを、ある人は飴と交換してくれた。
ある人は煙草と交換してくれた。
ある人は夕陽の写真と交換してくれた。
このチョコレートは私に届く以前にも、
何度もの交換(Trade)を繰り返してここにある。
この交換の続きを、私が新しく作ってみる。
ーコンセプト
原産地から消費者まで数多くのトレードが行われ、1枚のチョコレートは私の手元にある。
カカオが加工されチョコレートが出来ることは知っているが、どの国のどの農家が育て、誰の手に渡り加工されチョコレートが出来ているのかは知らない。
最も身近な食べ物のひとつであり、最も遠い場所から来た食べ物なのかもしれない。
本作品では、手元に届いたチョコレートを他人と物々交換をし、交換物を記録するという試みをした。私自身もトレードの輪に入り、原産からの地続きの上に乗ることで、味ではないチョコレートの側面を考えることが出来るのではないか。
選んだチョコレート
グアナラ GUANAJA 70%
グラン・クリュ(ブレンド)
力強くもエレガントな苦さの極み、 持続性のある香り
理由:作品がカカオ農家から私たちまでの繋がりを表現している。よりカカオを感じるこのチョコレートがインスピレーションとして合うと感じる。
とけないままごと
小此木みなみ / MINAMI OKONOGI
とけないままごと(シルクスクリーン)
小此木みなみ / MINAMI OKONOGI
溶かして、混ぜて、固めて、取り出して。
5歳の私にとって、バレンタインのチョコ作りは、何もかもめちゃくちゃで、おままごとのようだった。
絵の具にチョコを溶かす、目分量で色々混ぜてみる。
あれ、なんだかあんまり上手く刷れないや。
どこか拙い、私の20年越しのおままごと。
選んだチョコレート
オパリス OPALYS 34%
ミルクと砂糖を絶妙なバランスで配合したごく控えめな甘さが特徴のホワイト・チョコレート。
力強い刺激が感じられるストロベリーの味わいと、鮮やかなピンク色。
理由:絵の具に色々な香料を混ぜたことで、制作室が甘い香りでいっぱいになった当時の思い出がよぎりました。
Floating image of cacao
松下穂香 / HONOKA MATSUSHITA
Floating image of cacao (フォトグラフィー)
松下穂香 / HONOKA MATSUSHITA
私はカカオという実を実際に見たことがない。
カカオについてのイメージを調べるうちに、自分の中での「カカオ」のイメージの定義がまったく定まらないことに気づいた。
緑色でやや長く、或いはオレンジ色で丸く、或いは茶色で小さく…。
AIが膨大なインターネットの海からカカオのイメージを拾い上げるような行為と同じ要領で、自分も同じように遠い国のカカオとはどのようなイメージなのかを学習し、
その境界を厳しく定めることなく広義に捉え、我々の日常にチョコレートが存在するようにカカオのイメージも身近に存在することを定義する。
その行為は遠くの国で育ったカカオと自分との遠い距離を繋げるだろう。
選んだチョコレート
バイべ・ラクテ BAHIBE LACTÉE 46%
グラン・クリュ(シングルオリジン) ドミニカ共和国産カカオ
フルーティな酸味と、力強くも繊細な苦み、持続するナッティーなアロマが特徴のミルク・チョコレート。
理由:この作品を見てカカオのことを想像するように、このチョコレートを食べ、原産国のことを想像しながら味わっていただきたい。。
terroir
政井歌 / UTA MASAI
terroir(グラフィック)
政井歌 / UTA MASAI
テロワール。フランス語で地球、大地の意味の言葉。
チョコレートの味はこのテロワールによって変わる。赤道付近の遠い国々でカカオは作られ、長い時間をかけて私たちの手元に届く。チョコレート一粒にはそんな長い時間と場所が内在しているのだ。
チョコレート一粒を味わう体験は、自身のテロワールを探すきっかけとなった。
自分にとっての私を形成する価値観や記憶のテロワールを実感するとき、それは日記に記されていた他者との会話で出た言葉のかけらだった。日記にある言葉と、日常の記憶の映像から文字を集め日記の言葉を再構成した。
私を構成するテロワール。
選んだチョコレート
マンジャリ MANJARI 64%
グラン・クリュ(シングルオリジン) マダガスカル産カカオ
華やかな酸味と赤いベリーの風味
理由:作品のテーマにしているカカオのテロワールを一番感じるチョコレート。
密かに踊る、静かに歌う
張瀅鑫(チョウ エイシン)/ ZHANG YINGXIN
密かに踊る、静かに歌う(水彩画)
張瀅鑫(チョウ エイシン)/ ZHANG YINGXIN
宝石の堅固な輝き、
柔らかな川の流れ。
口の中でゆっくりと融ける瞬間、
私が不得意な甘さと深く愛する香りが広がってくる。
硬さと柔らかさ、甘さと香り、
それはすべて小さな結晶たちが密かに踊り、静かに歌っているのだ。
選んだチョコレート
オパリス OPALYS 34%
ミルクと砂糖を絶妙なバランスで配合したごく控えめな甘さが特徴のホワイト・チョコレート。
力強い刺激が感じられるストロベリーの味わいと、鮮やかなピンク色。
理由:ホワイトチョコレートは、カカオバターと砂糖とミルクで作ったもの。カカオマスの味ではなく、カカオバターの食感を特に感じられる。作品で描いた結晶はカカオバターの成分で、結晶の妖精たちはカカオバターの中に住んでいる。オパリスを食べるとき、そのなめらかな口溶けを味わいながら、結晶たちが踊っている姿もいろいろご自由に想像してほしい。そして、私のペンネームは有理(ゆり)。『オパリス(opal+lilyの造語)』という名と同じ百合の意味があります。あまり甘いものに得意ではない私が控えめな甘さのオパリスに出会い、さらに同じ名前を持っているということには奇妙な縁を感じている。
34.5度
小澤 良奈 / RANA OZAWA
34.5度 (フォトグラフィー+詩)
小澤 良奈 / RANA OZAWA
指先で触れて数秒後、体温を伴うかのように
チョコレートの甘い香りは記憶を助長する
記憶は温度を含んでいるようで
眠たげで鮮明に、あの頃を連れてくる
選んだチョコレート
グアナラ GUANAJA 70%
グラン・クリュ(ブレンド)
力強くもエレガントな苦さの極み、 持続性のある香り
理由:色味が濃いため写真のベースのトーンと近く感じたことと、鼻の奥に感じる甘い香りが、作品のイメージと重なったからです。私はビターチョコがあまり食べられないので、甘すぎないけどしっかり「甘味」が感じられる、というのが愛しいという感情とリンクするように感じました。
作品をヴァローナのチョコレートを味わいつつ鑑賞できる
いかがでしたでしょうか。実物は、ぜひ会場で。
2月6日にはオープニングイベントが開かれ、8人の作者である学生全員が、コンセプトなどを発表しました。また次の記事でもご紹介します。
イベントは、日本橋+NARU にて
イベント概要はこちら
2月17日までの開催。ヴァローナの有名なチョコレートを8作品鑑賞すると、8つ、味わえます。バレンタインシーズンに、チョコレートとアートがお好きな方は、ぜひ出かけてください。
私は仕事において、チョコレートとカカオに「商品」としてだけでなく、文化的にも、そして原点まで向き合います。実はそれが私のベーシック。そういう私には、感性にゆきわたるようなみずみずしい感動があり、心しずかに、チョコレートとカカオに向き合う時間がとれました。
みなさんに、おすすめします。
textチョコレートジャーナリスト 市川歩美