フランス人の「ソリダリテ」の精神とは何か(東洋経済オンラインの記事補足)

こんにちは。チョコレートジャーナリスト、ショコラコーディネーターの市川歩美です。
4月8日に、東洋経済オンラインで私が書いた記事が公開されました。
タイトルは「フランス在住の日本人が見た都市封鎖の現実」です。
Contents
東洋経済オンライン「フランス在住の日本人が見た都市封鎖の現実」で、伝えたかった「ソリダリテ」の力
この記事ではもう少し、強調したかった点を捕捉します。それは、フランス人が持つ「ソリダリテ」の精神です。
記事にも少し書きましたが「ソリダリテ」は、フランス人なら誰もが知る言葉。一丸となる、団結、連体する、たすけあう精神、というようなニュアンスです。
私は、この時期、取材を通して「solidarité(ソリダリテ)」という言葉に出会いました。
私は仕事でフランスへ行くことが多く、日本在住のフランス人の方との交流も多いため、「リアルなフランス」と接するたびに、日本で育った私との違いを感じてきました。その力強さや高い美意識、エスプリ、あたたかさに感動することもあれば、ちょっといい加減すぎ、適当すぎてありえない、とドン引きしたことも何度も。パスポートを盗られてえらい目にもあいましたしね。ひと回り回って、今はフランスが好きですが。
そんな中で私は、これまで、どうしても彼らの根底にぼんやりとある、何かがつかめずにいた気がしていましたが、少し理解できた気がするのはこの言葉によってです。
フランス人に流れる「solidarité(ソリダリテ)」の精神
感染者が、ヨーロッパでイタリア、スペインに次いで多いフランス。現在も厳しい状況にあります。1月24日に初の感染者が報告され、3月17日に都市封鎖。4月18日時点で、19,000人を超す死者が報告されているという事態に。都市封鎖をもってしても、感染者は12倍近くに膨れあがっています。
パリでチョコレート店やパティスリーを営む方の現実をとおし、生活者目線の日常を伝える。取材で当初私は、パリの人々から厳しく苦しい心境を聞くんだろうと予想していました。しかし、実際は、なんか違うんですね。
共通する強さのようなものがあるのです。たとえば
「ええ、厳しい状況にあります。しかし今は感染を増やさないために、ルールを守る時期ですから」「私たち以上に、より大変な業務に従事する人や医療関係者、感染者がいますから」というような。
現状「わかった」と受け止めたら、あとはあれこれ言わずに今は団結して行動します、みたいな。
漠然と抱いていたこの感覚を、あるパリ郊外在住の女性に伝えると、彼女は
「ソリダリテ、というんですけどね」
と言い、その概念を教えてくれました。
なるほど。興味を持った私は、他のフランス人、フランス在住の知人に尋ねると
「フランス人は自由で個人主義ですが、いざ国の危機となると「ソリダリテ」の精神を発揮し、自国を守ろうとします」
「フランスは今までにもソリダリテの精神で、あらゆる国の危機を乗り越えてきました」
「助けを求めている人がいたら、助けられる人が助けるのは当たり前のことと思っている。この感覚もソリダリテです」
あらゆる言葉を使って、ソリダリテ、を教えてくれました。
私が、大統領の演説で感じていたこと、かつて私がフランスでどうしようもなく困っていたとき、見ず知らずの私に、フランス人の方が(日本では考えられないほど)親身になって助けてくれたこと。そんなあれこれが、私の中でつながっていきました。
カメラ目線で、わかりやすく連体を訴えかけた演説
テレビ演説で、マクロン大統領は、やはり「ソリダリテ」という言葉を使い、演説をしています。
カメラ目線にも注目しました。
国の代表が「記者会見で記者に話す大統領の目線をテレビカメラが撮影する」のでなく、国民にしっかりと目線を向け、「Nous sommes en guerre.(私たちは戦争状態にあります)」と話しています。この「私たちは戦争状態にあります」というフレーズを6回も使い、わかりやすく連体を求めました。子どもにも、非常事態であることが伝わるはずです。
マクロン大統領が国民に向けてテレビ演説をする=ただならぬ事態、と国民は心の準備をしてテレビの前に座るといいます。
「私たちは軍隊と戦っているのでも、他国と戦っているのでもありません。しかし敵はそこにいます。目に見えず、つかみどころもなく、広がっています。総力戦で臨むことが私たちに求められています」「私は確信します。私たちが一丸となり、迅速に行動すればするほど、私たちはこの試練を乗り越えられる」(3/16マクロン大統領の演説より)
マクロン大統領の演説のわかりやすさにも私は注目しました。
「普段は自由で個人主義のフランス人ですが、いざ、マクロン大統領が国民にテレビ演説をするような国の危機となると、一丸となって連体、団結し、フランス人らしい誇りを持って国を守ろうする」(フランス在住者)
医療従事者、生活を支える人々を優先し、感謝することを国民に伝えた大統領
大統領は、医療従事者を最優先して支える意志を伝えています。
▲マクロン大統領は、3月25日に感染拡大が深刻なミュルーズ市を訪問、最前線に動員された医療従事者を激励
ミュールーズでも、大統領は、医療従事者が仕事に専念できる環境を支えると伝え、生活基盤を支える仕事につく人々と、全国民に感謝と敬意を表しています。さらなる連体「ソリダリテ」を求めました。
「フランスのこの友愛精神のおかげで、われわれは踏ん張ることができ、打ち勝つことができます。あらゆる連帯力を活性化し、一丸となることで、われわれは立ち向かうことができます。われわれ一人ひとりに果たすべき役割があるのです」(3/25マクロン大統領の演説より)
ジャック・ジュナン氏は、すぐにチョコレートを医療従事者に届ける判断をし、多数のチョコレートブランドやショコラティエが医療従事者を支援。
料理人たちは、次々連携をとってランチを作って病院に届け、フランスが誇るファッションブランド「シャネル」は150人ものオートクチュールとプレタポルテの職人を集めて防護服、防護マスクを作る。ディオールも、ルイ・ヴィトンもアトリエでマスクの製造を始めています。
命を失うリスクの中、最前線で「戦う」医療従事者のために、国民は夜8時に拍手をして応援する。「国の危機」と認識したら、即自分ができることを見つけて連体し、行動する。
もちろん一括りにできないことはあるにせよ、この行動の向こうには一貫して「ソリダリテ」が垣間見えます。
日本人のフィルターを通しているばかりでは、決して見えないことがあります。この感覚をベースに理解できるフランス人の行動があるのではないでしょうか。
▲ジャック・ジュナンのイースターのショコラ
マクロン大統領が、1ヵ月前にフランス国民に語った言葉が日本に響く
3月16日。一ヶ月前のこと。
「若者も含めてだれひとり不死身ではありません。(ルールを守らない人に向けて)あなた方は自分を守らないばかりか、他人も守っていません。たとえ症状がまったくなくても、友人、両親、祖父母に感染させ、あなた方にとって大切な人たちの健康を危険にさらす恐れがあるのです」マクロン大大統領演説から
私は、マクロン大統領のこの言葉は、日本にも向けられるべきだと感じていました。
一ヶ月後のいま。実際に日本の感染者も増え続けています。海外に住む知人は、全員が私を心配してくれます。
「フランス人は規制するくらいでないと従わないけど、日本人は「自粛」という言葉で比較的きちんと動く」(シンプルな私の感覚ですが)傾向はあるように思いますが、より意識を強く持ちたいものです。
佐野恵美子さん、工藤彩香さんほか、みなさまに感謝
東洋経済オンラインの記事の中に登場した、佐野恵美子さんは「レトロワショコラ」のショコラティエール。工藤彩佳さんのパリ18区(モンマルトル)のお店は「ジル・マルシャル」です。ショコラ、スイーツ好きなら、よくご存知ですね。
私はパリで、おふたりとお話するのがいつも楽しみです。パリが平常に戻ったら、まっさきに訪ねるので、それまで、がんばってほしいです、フランス。(そして私たち日本も)
text チョコレートジャーナリスト 市川歩美