カカオのリアル「カカオ危機とチョコレートの未来」イベントレポート  

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【The Chocolate Journal チョコレートニュース&レポート】by Chie Araki/edit by 市川歩美

この記事では、NPO「ACE」のクラウドファンディングのリターンとして開催されたトークセッション「カカオ危機とチョコレートの未来」を、荒木千衣さんがレポートしてくれます。

目次

トークセッション「カカオ危機とチョコレートの未来」

チョコレートを購入する際、皆さんはどんな点を気にされますか?

味や価格でしょうか。誰かがおすすめしていたから。好きなメーカーさんやショコラティエさんだから。もしくはカカオの生産国で選ぶ方もいるかもしれません。

日本では安価で気軽にチョコレートを買って食べることができますが、カカオの生産国では必ずしもそうではありません。

チョコレートを食べたことがないどころか教育を受けられず、カカオ農園で働く子どもたちがいる地域もあります。ACEは、あガーナのカカオ産地で、2009年から15年間にわたって取り組みを続けています。

<NPO法人ACE(エース)がクラウドファンディングを実施>

アニダソチョコレートを味わいながらのトークセッション

今回のトークセッションは、クラウドファンディングのリターンのひとつです。

トークセッション「カカオ危機とチョコレートの未来」が、7月9日(火)に都内で開催され、私(荒木)も参加しました。登壇者はACE副代表の白木朋子さんと、カカオ専門商社である立花商店取締役の生田渉さん、そしてチョコレートジャーナリストの市川歩美さんです。その一部をご紹介します。

参加者は、アニダソチョコレートとコーヒーを味わいながら、トークセッションを聞くことができました。

カカオ危機によってチョコレートが語られるようになった

話題になったのは、昨今の「カカオ危機」についてでした。

生田渉さん
「私が取材を受けるのは、日経新聞でも株式市場とか投機、投資に興味を持っている人に向けた小さな記事で年間4回くらいなんですが、今年は週1回ぐらい電話がかかってきたんですね。
というのは、2024年の1月くらいからありえないくらい価格が高騰したからです。一体どういうことが起こっているのか、と。それから2〜3ヶ月経って、朝一般の人が見るようなメディアでも大変なことだぞと取り上げるようになって。チョコレートの値段が上がる、となると一般化してくるんですよね」

白木朋子さん
「より一般化したところにカカオ危機が取り上げられるようになったのも特徴的なところかな、と思うんですけど、歩美さんはどんな感じの取材を受けましたか?」

市川歩美さん
「そうですね。私は10メディア以上対応しています。たとえばTBSテレビの『ひるおび』とか『めざましテレビ』ですね。私は生田さんのようなタイプの専門家とはまた違いまして、幅広くチョコレートの情報、カカオの情報を把握していますので、それらをなるべくわかりやすくお伝えするようにしています。
『ELLE gourmet』はスタイリッシュで、美味しいものを選ぶ読者が多いメディアで、異例だそうですが、チョコレートは人気ですので、カカオショックを伝えたいということで、ご依頼を受けてコメントしています。あとは経済メディアもあります。『マネーポスト』で解説、『東洋経済オンライン』で執筆、かなり反響がありました」

左から白木朋子さん、市川歩美さん、生田渉さん

生田さん
「大変なことが99%なんですけど、一ついいことを挙げるとすれば、カカオとかチョコレートがよく皆さんの間で語られるようになったこと。すごく嬉しいことだなと思います。みんなが関心持ってくれているなと」

市川さん
「チョコレートの向こう側にカカオ産地があって、そこで問題が起きてるのかということが、これを機に広く皆さんに伝わったんじゃないでしょうか。その点は本当によかったですね」

白木さん「カカオの高騰に関心を持って、色々なメディアが取り上げてくれたのは、今回の特徴的な動きですね」

カカオ価格高騰のグラフを示し、説明する白木さん

カカオ生産国の勢力図が変わりつつある

ガーナで長く支援活動を続けている白木さんからは、こんなお話もありました。

白木さん
「カカオの生産国第一位がコートジボワールで、長年ガーナが第二位だったんですが、ちょっと入れ替わりそうな様相を呈しています。これはカカオ危機とも繋がっていて、カカオ生産量が西アフリカで減ってしまっているのが理由です。
アフリカが一番多くて次が中南米で、続いてアジアとなっています。カカオは南北緯度20度以内の地域、熱帯地方で育つ植物だからです。一方でカカオを原料にチョコレートを消費しているのは、地域的に見るとやっぱりヨーロッパが圧倒的に消費が多い。その次が北アメリカ地域、第三位がアジアの各国で日本も含まれます」

生田さんは、エクアドルの状況を解説してくれました。

生田さん
「我々日本は、ガーナから最も多くのカカオを輸入しています。世界全体のカカオ生産量は年間大体500万トン採れる中で、ガーナは一時期は100万トンを生産し、大きなシェアを占めていました。ですが、今年は45万トンぐらいになってしまったんですね。要は半減以下です。
一方で南米のエクアドルは品種改良や、少ない労力でたくさん採れる品種を開発して2000年代から植えていて、多く収穫できるようになり、ガーナを追い越すのではと言われています。ガーナは、ここまで不作になるとは思っていなかったため、来年は政府が人工受粉で、つまり虫ではなく人を派遣して受粉を行う、などというアナウンスをして、来年は収穫が増えることをアピールしていました」

カカオの価格はどうやって決まる?

次の話題は、最近よく耳にするカカオの価格高騰。生田さんはこう説明しました。

生田さん
「日経新聞にも取り上げられているように、カカオはロンドンやニューヨーク市場で扱われていて、投機や投資の対象になるんですね。実際にカカオを必要としない人でも、株式とか為替と同じように売ったり買ったりできる商品になっています。世界中のカカオの値段は、国際市場で取引されている、株式市場のような取引をベースに価格が決まっています。
生産国ではどうかというと、国によって違います。国際価格と連動してカカオの価格をすぐにあげる自由取引のエクアドルのような生産国もあれば、ガーナの場合は国が全ての国の農家のカカオ豆を全部買って、政府がまとめて必要な企業に売るわけです。価格は1年ぐらい前からもう決まっていて、その7割を生産者に払うといったルールになっています。
ただ、2024年の1月から急激に価格が上昇したため、過去に決めた価格との大きなギャップが生まれました。今はガーナやコートジボワールの農家さんは損した感じになっているわけですね。逆に世界相場は安くなったら、政府が高い価格で買ってくれるのでよいのですが」

白木さん
「ガーナのカカオ農家がカカオを売るタイミングと、価格にずれが生じてているんですね。今、国際価格は上がっていけれど、ダイレクトに農家の人たちの収入がそれに応じて増えている状況ではないということです。
そして、買い上げ価格が上がったとしても実際生産量は下がってしまっているので、農家の収入増加には繋がっていません。もう一つの側面として国の経済状況が悪いです。昨年の12月にデフォルト状態になって、物価高が続いています。生活物資もどんどん値上がりしている状況なので、売るカカオがない中で、生活物資にかかるコストは増えている状態です」

ガーナの状況

ACEの広報誌

白木さんはガーナの状況を、市川さんは現地で感じたことを伝えてくれました。

白木さん
「2008年に最初にガーナに行って、ずっと通い続けているわけですけれども、気候変動の影響がかなり出てきていると感じます。現地の人もよく言っているのは雨のパターンが変わってきてしまっていると。元々雨季だった時期に雨が降らないとか、雨季じゃないのにすごい雨が降って氾濫してしまっているとかですね。
2年ぐらい前に初めて見た光景ですが、カカオの葉っぱが茶色く乾燥して、白いパルプの部分が乾燥して商品にならない、みたいなことが起きています。カカオ農家の人に聞くと、カカオの収穫量が年前から半分以下、3分の1に減っているので、非常に大きな痛手であるとも聞こえてきます」

市川さん
「現地へ行ってわかったことは多く、胸が痛くなるような気持ちになりますね。カカオ農家の方は、生活がかかってるんですよ。気候変動の影響でカカオが商品にならなかったら、収入が入らなくなって生活ができなくなっちゃうんです。カカオで生計を立てている人たちなんですよ。そもそもこれまで順調に収穫できてカカオが売れた時代にも、そんなに多くの収入は得られてはいません」

カカオを明るい未来にするために、私たちが今できること

難しい課題が山積みのため、最近はカカオ栽培をやめる人も多いといいます。気候変動だけでなく、国の仕組みや経済不安など複雑に絡み合っている中で、私たちは何ができるのでしょうか。

白木さん
「時間差でいい結果が出てくることがあります。今、私達も多くの問題を抱える中で、今できることをやる。何もしないでいると、逆に時間差で大きな影響が出てきてしまう。みなさんがまずは現状を知り、できることを考え、行っていくことが重要だと思います」

市川さん
「チョコレートを選ぶ際のポイントとして、2つあると思っています。ひとつは普段やお小遣いがあまりないときには、手頃な価格のチョコレートを選ぶ。もうひとつはギフトや、ちょっと余裕があるときには、チョコレートの向こう側の、カカオ生産者のことを考えたチョコレートを選ぶ。例えばアニダソなどですね。少しお値段は高くでも、カカオ産地や生産者に心を向けた視点で作られたものの存在をまずは知って、買って、自分やまわりに何が起きるかを試してみる。まずはチョコレートを選ぶことから、変わっていくとよいなと思います」

小さなことでも、一人一人が考えて、今できることを模索していく。立ち止まって、思いを馳せた上でチョコレートを選ぶ。そういったことに、ヒントがあるのかもしれません。

NPO法人ACE  https://acejapan.org 
立花商店 https://www.tachibana-grp.co.jp/
市川歩美 https://www.chocolatlovers.net  

ACEの活動25年を記念して生まれた「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレート

アニダソチョコレートは、一枚買うと500円が自動的にカカオ農家の子供たちの未来のための支援につながる、美味しくて心にも優しいチョコレートです。

【The Chocolate Journal チョコレートニュース&レポート】text:荒木千衣  編集:市川歩美 

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