こんにちは。チョコレートジャーナリストの市川歩美です。
前回の記事の続編です。そもそも、なぜ明治がメキシコでカカオの栽培をしているの?さらには、なぜ「ホワイトカカオ」なの?ということについて、説明します。
まず、明治は、メキシコでカカオの栽培に取り組んでいます。そのカカオ は、カカオ豆をカットすると中が白い「ホワイトカカオ」とされるもの。
先日ご一緒した、明治でカカオといえばこの方!明治 グローバルカカオ事業本部 カカオクリエイターの宇都宮洋之さんに、直接お話を伺いましたので、みなさんにもシェアしますね。
明治がなぜメキシコでカカオ栽培をするの?
それでは、市川歩美が、宇都宮洋之さんにお話を伺います。
市川歩美(以下 市川):宇都宮さん。
改めて伺いたいんですが、そもそもなぜ明治さんがメキシコホワイトカカオなのか、ということです。明治 のサイトに、メキシコでの取り組みが説明されたページがあるものの、もう少しくわしくお聞きしたいです。
宇都宮さん:そうですよね。まず、サイト上には、こう書かれています。
2005年、明治の研究所に「カカオ基礎研究グループ」が立ち上がります。それまでは、商社などから入手したカカオ豆サンプルを評価し、現地確認を経て購入、そこからチョコレート作りを行っていました。
しかしこのグループの設立によって、豆からチョコレートを作る機運が高まり、頻繁にカカオ産地を訪問するようになります。南米を訪れた際、メキシコでホワイトカカオを栽培する農家がいると知ったのが、明治とホワイトカカオの出会い。
その後、希少なホワイトカカオをより多くのお客様にお届けしたいという思いから、メイジ・カカオ・サポートの一環として2016年からメキシコ南部でホワイトカカオの栽培に乗り出しました。
たしかに、この前が、知りたくなりますよね……?
市川:そうなんですよ、ぜひその前段階も含めて、教えてください。
宇都宮さん:まず、私が入社した時点から、カカオの品質検査項目に「ホワイトカカオ=クリオロ」とありました。乾燥が終わったカカオ豆のカットテストでは、紫色=発酵不良、茶色=発酵良好、乳白色=クリオロ、として分類するんですね。
しかし、乳白色は全く出現しないんです。出現しないのに検査項目に入っている……。なんでなんだ?という疑問がありましたが、それは「それほど貴重なものなのだ」と教わりました。
その後も、工場で使うカカオ豆の中からは、滅多に乳白色のカカオは出現しませんでしたが、世界には色々とおいしいカカオ豆があるだろう、という研究を行なう中で、たまに乳白色のカカオ豆が出てきたんです。
市川:滅多に出てこない乳白色のカカオ、出会えたら、惹きつけられるでしょうね。
宇都宮さん:そうなんですよね。そこで「なぜ白いのか、白いとどんな味がするのか?」を調べるようになりました。乳白色のカカオが出てきたら、貴重な豆入れに保管、チョコが作れる量までためて、乳白色のチョコを作ってみた事もあります。
市川:それは、どんなお味でしたか?
宇都宮さん:その時は、産地も混ざりますし、品種もクリオロかどうかも不明。発酵もバラバラな状態の豆から作ったチョコでしたからね、あまりおいしくはできませんでした。
市川:なるほど、そうなってくるとますます「乳白色のカカオだけでおいしいチョコを作りたい」という気持ちが、聞いている私まで高まってきます。その後、どうなったのですか?
宇都宮さん:「100%チョコレートカフェ」の立ち上げのとき、世界のカカオ産地展開をすることになりました。そこで「クリオロ、ホワイトカカオも商品化しよう」となったんです。この時は、紫豆も混ざるものの、乳白色比率の高い産地を選んで、商品化しました。これは、なかなかおいしく出来上がったと思いますよ。
市川:あの「100%チョコレートカフェ」で!ただ、希少なカカオですからね、数に限りがあったでしょうね。
宇都宮さん:はい。実際、このカカオは大変貴重でしたから、価格が高くなり、一般化は難しかったです。高級ラインでシェフが使用するもの、という状態でした。それをいつかもっと広く皆さんに提供できないかな、と考えていました。
2016年メキシコでホワイトカカオを栽培するカカオ農園と出会った
市川:広く一般の方に届けるには、ホワイトカカオを沢山、入手しなくてはなりませんね。
宇都宮さん:そうなんです。そんな中、2015年に、メキシコで、ホワイトカカオ(メソアメリカクリオロ)を生産し始めるという情報を入手しました。これは確認しに行かなくては!と。
2016年にメキシコへ飛んでカカオ農園を訪問。その農園で私は「これなら明治が多くのお客様に、貴重なカカオを提供出来る日が来る。出来る」と確信しました。
市川:2016年の出会いが素晴らしいものでしたね。メキシコでホワイトカカオを栽培する農園との関係が築けたことが、第一歩になりました。
宇都宮さん:そうです。この出会いによって、今、明治がホワイトカカオを扱い、商品化するに至っています。
明治のカカオ農園は、メキシコの「ソコヌスコ」というエリア内にあります。このエリアでメキシコ政府認定の「メソアメリカクリオロ」を栽培していますが、それを商品化出来るのは、本当に貴重なことです。奇跡的だとも思います。
市川:歴史的にも、味の面でも貴重なメキシコの「メソアメリカクリオロ 」という品種を「メキシコホワイトカカオ」のシリーズのカカオ 豆だということ。それを、明治さんが日本で届けてくれているとわかりました。
メキシコホワイトカカオの「水ガナッシュ」今後の展開は?
市川:商品についてですが、メキシコホワイトカカオを使った新しい「水ガナッシュ」「ホワイトカカオミルク」。とても美味しかったのですが、一般販売の予定はありますか?
宇都宮さん:まず「水ガナッシュ」は、サロン・デュ・ショコラ限定販売というのが今の状況ですが、生産ラインの増強を行っている段階です。実は、昨年(2022年)、ゲリラ的に水ガナッシュをサロショ以外で限定発売したんですよ。今年は、その展開を広げて行きたいと考えています。
メキシコホワイトカカオの「ホワイトカカオミルク」今後の展開は?
市川:「ホワイトカカオミルク」の、一般展開の予定はいかがですか?
宇都宮さん:「ホワイトカカオミルク」も、増産体制を進めていますが、こちらはこの先、2年ぐらいは掛かるかもしれません。メキシコのカカオ農園の生産量がカギとなりますね。生産量は年々増えてきますが、現地で発酵コントロールも行う必要があるため、メキシコの体制も整える必要があります。
クリオロ、といえば、遺伝子的な確認も出来ていて「ホワイト=白い」というだけの品種ではないのです。例えば、ペルーのピウラは遺伝子的にクリオロではなかったんですよ。
メキシコでホワイトカカオを栽培し、商品して魅力を届ける
市川:メキシコで貴重なカカオを守り育てつつ、実際に商品という形にする活動を、あわせて行なってるわけですね。
宇都宮さん:そうですね、この「メキシコホワイトカカオ」の魅力を伝えるために、色々な形にしています。チョコレートだけでなく、カカオから作るプラントベースミルクもそうです。実際に味わった方から「他の植物性ミルクよりおいしい」「料理にも使える」といったうれしいお声がありました。これからもっと、メキシコホワイトカカオの可能性を広げて行きたいです。
市川:宇都宮さん、よくわかりました。ありがとうございました!
メキシコ政府認定「メソアメリカクリオロ 」を味わえる
いかがでしたか?
明治の「メキシコホワイトカカオシリーズ」は、サロン・デュ・ショコラ限定販売され、毎年味わい続けてきた、というチョコレートファンも多いことでしょう。しかし、意外とそのいきさつをご存知ない方も、多かったかもしれません。
明治の「メキシコホワイトカカオ」は、メキシコ政府認定の「メソアメリカクリオロ」という品種のカカオから作られるシリーズです。
スーパーやコンビニで気軽に買えるチョコレートがおなじみの明治ですが、実はカカオの世界では最先端の取り組みを行っています。実はプロのショコラティエのみなさんも、活動に注目しているほど。もちろんジャーナリストである私も注目しています。さらなる展開を期待しつつ、またみなさんにさらなる情報をシェアできるのを楽しみにしています。
この記事は明治「Hello,Chocolate」にも掲載されています。
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チョコレートジャーナリスト 市川歩美