こんにちは。チョコレートを主なテーマに掲げる、ジャーナリストの市川歩美です。
バレンタインシーズンに、メディアの方から多くの質問をうけました。「チョコレートの価格は上がりましたが、この先はどうなるでしょうか」「カカオの価格が下落していますがチョコの価格への影響は?」。経済メディアで書くことも考えましたが、今回は、一般のチョコレート好きな読者が多いチョコレートジャーナルに、わかりやすく私・市川歩美がまとめます。

チョコレートの値上がり
2024年から2025年にかけて、世界のチョコレート市場を揺るがした「カカオショック」。チョコレートの原材料であるカカオ豆の国際価格が急騰し、一時は1トンあたり1万2000ドルを超える歴史的高値を記録しました。
背景には、西アフリカでの不作があります。世界のカカオ生産の約6割を担うコートジボワールとガーナで、天候不順やカカオの木の病害が重なり、生産量が大きく落ち込みました。そこへ投機資金が流入、価格は異例の水準まで押し上げられたといわれています。
カカオショックの影響は、日本のチョコレート売り場にも及びました。スーパーやコンビニではおなじみのチョコ菓子が値上がり、価格はそう変わらずとも中身の量が少し減る、といった「実質値上げ」も相次ぎました。私の耳にも「チョコレートが贅沢品になるのでは」との声が、あちこちで聞こえてきたほどです。
カカオの価格が下落

ところが、2026年に入って状況が一変しました。カカオの価格が下落したのです。
背景には主要産地のカカオの収穫量が戻ったこと、投機資金の流出などがあるでしょう。カカオ豆の価格はピーク時の3分の1以下、2024年秋以前のカカオショック前と同じ、1トン2000ドル台にまで下がりました。
おお〜、という感じでチョコレート好きな消費者はこう思ったかもしれません。「原料が安くなったのだから、チョコレートも安くなるはずではないか」と。
しかし店の棚を眺めれば、チョコレートの価格は高いままです。なぜ、カカオ価格が下がってもチョコレートは安くならないのでしょうか。
実は私は「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)をはじめ、多くのメディアでこのテーマについて語ったのですが、もう少しわかりやすく、詳しく説明します。カカオの価格が下がっても、チョコレートの価格は簡単には下がらない理由を考えてみましょう。
高値で買ったカカオの在庫がある
チョコレートの値段は、原料であるカカオの値段だけでなく、為替、輸送費など、さまざまなコストが重なって決まっています。
チョコレートの価格が下がらない理由のひとつは、今もまだ「高値のときに買ったカカオの在庫」が残っているからです。企業によっても異なりますが、カカオのように国際市場で取引される商品は価格が大きく動くため、メーカーはリ、数カ月から1年以上先の分まで前もって契約して買うのが一般的です。いわゆる「予約購入」のようなイメージです。
チョコレートメーカーは、世界中のチョコ好きな消費者のために、2024年から2025年にかけて、価格が急騰したときも、商品を作り続けるため、高値でもカカオ豆を確保する必要がありました。これも企業によりますが、いま工場で使われているカカオ豆の多くは、価格が高かった時期に契約したものである可能性が高いです。今の価格がどうであれ、在庫を使い切るまでは、価格を下げることはできません。
カカオ以外のコスト増

それならしばらくしたらチョコの価格が下がるか、といえば、そういうわけでもありません。
チョコの価格が下がらない理由は、まだあります。理由はチョコはカカオだけでできているわけではないからです。
現在の世界的なインフレの流れの中、そもそもほぼすべてのコストが上がっています。チョコレートに使われる砂糖や乳製品などの原材料費、チョコを包むアルミ箔や、プラスチック容器などのパッケージ代、そして工場や店を動かすための電気代も上がっています。物流費と人件費の高騰も大きいですね。
日本では、物流業界の「2024年問題」に伴う運賃の値上がり、人手不足などの問題があります。カカオ価格が下がったとしても、このように他のコストが上がったために、最終的なチョコレートの価格はやはり高くなります。テレビでもお話ししましたが、これは何もチョコレートに限った話ではありません。
為替の影響もある
さらに、輸入チョコレートには円安の影響があります。日本では輸入チョコレートに根強い人気があります。輸入されるものには、為替の変動は価格にダイレクトに響きます。
たとえば、完成品としてヨーロッパから輸入されるチョコレートは、多くがユーロ建てで取引されています。ユーロ高・円安になれば、日本の輸入業者が支払うコストが上がります。
たとえば、フランスのショコラティエから10ユーロのチョコレートを仕入れるとします。1ユーロ=120円のときなら、仕入れ価格は1200円。ところが、1ユーロ=180円になると、同じ10ユーロでも1800円になります。現地での製造コストが変わらなくても、こんなに価格が上がるのです。

さらには、海外から日本へ運ぶ海上運賃や保険料も外貨建てだとすると、為替の影響で輸送コストも増加します。
つまり、日本のチョコレート価格は「カカオの価格」だけでなく、「為替相場」の波の影響も受けます。ドルやユーロが高止まりしている現在のような状況では、特に輸入チョコレートの場合は、店頭価格に反映されます。
カカオ価格は下がっても、チョコレートを取り巻くコスト全体が上がっている。この現実が、「チョコが安くならない」理由のひとつです。
後編へつづく
text ジャーナリスト/チョコレートジャーナリスト 市川歩美

