こんにちは。チョコレートジャーナリスト、ショコラコーディネーターの市川歩美です。
ハフポストで、ガーナ政府と日本主導で作られた「児童労働フリーゾーン」について記事を書きました。
チョコの背後にある児童労働に「待った!」日本のNGOがガーナ政府を動かした。
ガーナは日本が最も多くカカオ豆を輸入している国です。
そんな日本のチョコファンにとって大切な国、ガーナのカカオ生産者の生活向上を目指し、子どもたちが労働をしなくてもすむようにと、今、日本のNGOが活躍しています。
日本政府もそのために、大きな国際支援を行っています。JICA主導のもと、日本のチョコレート関連企業が壁をこえて集まり、カカオ産地を支援するために、積極的な取り組みが行われています。
カカオ産地の児童労働をなくすための日本の取り組み
児童労働、という言葉を、みなさんもご存知だと思います。「チョコレートの原料となるカカオ農家の子どもが、学校に通えず、危険な作業に従事している」という話を聞いたことがある方も、多いことでしょう。
実際のところ、コートジボワールとガーナ(世界第一・第二のカカオ生産国)をあわせて、約156万人もの子どもがカカオ関連の児童労働に従事しているというデータがあります。(シカゴ大学NORC研究所による)
SDGsの目標8・ターゲット7は「2025年までにすべての形態の児童労働を撤廃する」という内容。チョコレートの原材料、カカオ生産地の子どもたちが、みんな幸せであることを、チョコレートファンなら、みんな願っているのではないでしょうか。
ガーナ政府と日本が主導する「児童労働フリーゾーン」とは
私が記事にした内容は、ガーナ政府が2020年3月に発行した「児童労働フリーゾーン(Child Labour Free Zone )」構築のためのガイドライン」について、です。
児童労働フリーゾーンとは、児童労働のないゾーンという意味です。児童労働を予防、是正する対策やしくみが整っている地域であるということ。それを認定するためのガイドラインが、日本の支援、そして日本のNGO「ACE」の主導で、作られたのです。素晴らしいことです。
「児童労働フリーゾーン」の認定ルールは、おおまかに8つあります。
たとえば
コミュニティに児童労働がないことを定期的にモニタリングする仕組みがあるか、子どものための学校の環境が整っているか、自治体に貧困家庭の経済支援があるか、子どもの就学、職業訓練を支援する制度があるか、児童労働の被害を受けた子どもや家族を保護・救済する仕組みが機能しているか、など。
また、今はできていなくても、対策をとっているエリアも、段階的に評価されます。
ガーナのカカオ産地と20年向き合い続けてきた白木朋子さん
このガイドラインを整えるの大きな役割を担ったのが、日本のNGO「ACE」です。プロジェクトの代表メンバー 白木朋子さんは、1997年から、20年ものあいだ、ガーナのカカオ産地で、児童労働をなくすための活動を続けてきた人。
白木さんと私は、随分長いおつきあいですが、チョコレート好きな方で、ガーナ政府やガーナのカカオ生産者のみなさんから、大きな信頼を得ています。
「児童労働フリーゾーン制度」は、ガーナ政府の国家行動計画で、同時にACEの構想でもあったため、合意する形で、ACEがガーナ政府のガイドライン作成の議論に参加。
ガーナで20年も活動を続けてきた白木さんだからこそ、政府に認められ、ガーナ政府が動いたといえるでしょう。カカオ生産者と対話してきた多くの経験が、ガイドライン制定に活かされたわけです。
カカオ生産者に、上乗せした金額を支払える
ところで、ガーナでは基本、どの地域で誰がカカオを作っても、同じ金額で買い取られる、ということをご存知ですか?
ガーナでは、国内で生産されたカカオ豆を「COCOBOD(ココボード)」という政府組織が毎年一律、価格を決めて買い取るので、どの生産者に支払われる金額も一律。価格は国際的な先物取引をベースに決まります。それが基本です。
しかし、実は例外もあります。ココボードと、カカオの買付のライセンスを持つ商社と、集荷業者と、3者が契約すれば、地域を指定したカカオ取引が可能。その場合「トレーサブルプレミアム」として、金額を上乗せして取引されるのです。
ということはです。「児童労働フリーゾーン」認定がスタートすれば、児童労働フリーゾーン指定でカカオを買うことができるのではないでしょうか。そうすれば、その地域の生産者には上乗せした金額を支払えます。
これは私のイメージですが、将来的に「児童労働フリーゾーンマーク」や表示などができれば、買う側にもわかりやすく、カカオ産地を応援しやすくなるかもしれません。
日本政府も、日本企業もカカオ産地支援に取り組んでいる
日本政府も、日本企業も、カカオ生産者の生活向上のための取り組みを行なっています。
2020年1月には、JICAの主導で「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」が立ち上がりました。
メンバーには、ロッテ、森永製菓、Dari K、不二製油などのほか、フェアトレードジャパン、日本チョコレート・ココア協会などが集まり、カカオ産業が抱える課題解決を目指しています。(現在のメンバーは120以上)
日本政府が発行する「SDGsアクションプラン2022」には、「カカオ産業の児童労働の撤廃」という目標があり、今年2月4日には、新たにプラットフォームに「児童労働分科会」がスタート。企業同士が協働し、日本企業として何をすべきかを探っています。
企業個別でなく協力しあうことも大切
多くの企業やメーカーが、自社のサプライチェーン、自社が関わる生産地などに、個別に支援を進めています。もちろんそれはとてもよいことですが、白木さんは「このままでは大きな問題は解決しない。企業もNGOも政府も、それぞれの視点から知恵を出し合い、協力しあわないと、児童労働や森林破壊のような大きな問題は、解決できないんです」と話してくれました。
広く、大きな活動を展開できるのは、やはり大企業です。支援に必要なのは、やはり資金、人、技術力。一部の人々と関わり支援するにとどまらず、世界のカカオ生産者の生活支援、西アフリカの153万人の児童労働の撤廃、といったような、とてつもなく大きな問題には、戦略をたて、大きな力で立ち向かわなくては解決しない、というのは容易に想像がつきます。
もちろん、私がたびたび、カカオ産地に関わる記事で書いているように、価値観や文化が全く違う国だからこそ、長い時間をかけた交流や、相互理解が不可欠だと思います。
ガーナ政府と日本が主導する「児童労働フリーゾーン」は、まだ形になったばかりです。今年6月からのスタートを予定していますが、時間をかけて軌道にのれば、他国にも、またカカオ産地以外の児童労働問題にも、応用できることでしょう。ガーナ政府と日本の取り組みに、期待が寄せられています。
チョコの背後にある児童労働に「待った!」日本のNGOがガーナ政府を動かした。
(テキスト市川歩美)
text チョコレートジャーナリスト 市川歩美
https://chocolatejournal.fun/archives/2021-03-06.html