こんにちは。チョコレートジャーナリスト、ショコラコーディネーターの市川歩美です。
昨日、ノルマンディにある有名なチョコレートブランド「クルイゼル」を訪れました。 ブランドの3代目、マーク・クルイゼルさんとお話したことを、今日は、みなさんにシェアします。
マーク・クルイゼルさんとは
マーク・クルイゼルさんは、1948年創業、ノルマンディーの有名チョコレートブランド「クルイゼル」の3代目。
クルイゼルは有名パティシエや、ショコラティエに定評のあるクーヴェルチュールを作っているほか、パリ市内に5店舗、世界52カ国でチョコレートを販売しています。パリでは、ボンマルシェやギャラリーラファイエットといった高級店をはじめ、プレミアムな商品を揃えるショップで販売されています。
クルイゼルは、以前、ミシェル・クルイゼルというブランド名でしたので、ミシェル・クルイゼル、といえばわかる方も多いかもしれません。
マーク・クルイゼルさんから日本のファンへ
マークさんは、私がノルマンディーを訪れた日もお忙しそうでした。 ファクトリーを取材させていただいた後、ご多忙のなか時間をとってくださって、ランチをご一緒に。マークさんのお隣の席に座って、いろいろなお話しをしました。
デザートの時間になり
「 マークさんのファンが日本にたくさんいますので、マークさんから日本のファンへのメッセージがあればお願いします」と申し上げたところ「え?私にですか?え? フランソワ(息子さんで4代目)ではなくて?」と笑いながらおっしゃったので「もちろんです。マークさんのファンがたくさんいますよ」とお伝えしました。
すると「ちょっと待ってくださいね」としばらく黙り、私が考えていることは、と微笑みながら、こんなお話しをしてくれました。
チョコレートをベストなものに
以下、マークさんのお話です。
The chocolate is a moment of presure,つまり、チョコレートは喜びのモーメントです。 栄養も大事ですが時に、そういうことではなくですね。そしてチョコレートは、喜びです。 私はそういうチョコレートをベストなものにしようといつも考えています。
ベストな原材料を使って、人工的なものを使わず。ミックスする原材料たちを全てリスペクトしています。
また、 私は良いプロダクトとして、なるべく少ない砂糖を使って素材の風味を生かすことを考えています。すべてにおいて、ひとつひとつの原材料が大事。通常チョコレートには砂糖が入っているものですが、なるべくそれを少なめにするということです。
シンプルだけどパーフェクトなチョコレート
それから私は、砂糖を少なくすること以外に「トラディショナルなチョコレート」を作るショコラティエです。プラリネやクロッカンやマジパンなどを使ってですね。
例えば私は魚にチョコレートをかけたり、オイスターにチョコレートを、といったものを作るタイプでなく、どちらかと言えばとてもシンプルだけれどもパーフェクトなもの。そういうものを作ろうと思います。すべてはシンプルですけれども、実はとても計算されたチョコレートです。
チョコレートの違いを伝える
私には6人の孫がいます。
小さな子供たちがいるから考えることかもしれませんが、おじいちゃんとして、気軽に食べられる、例えばファストフードと、材料を吟味して作られた高価な食べ物の違いを、伝えたいと思っています。
どちらが良いと言うわけでは無いのですが、チョコレートに関しても、広く販売されている気軽に食べられるマスマーケットのチョコレートと、材料を吟味し、丁寧に時にはほとんどが手作業で作られたハイクオリティなチョコレートとの違いを、「言葉で自分で説明できるように」伝えたいのです。
ワインだとできませんが、チョコレートなら子どもだって、大人だって、誰でもできますよね。
喜びをシェアする
感じたことを言葉にできれば、コミュニケーションのきっかけになります。
一般的には、私はこのチョコレートが好き、このチョコレートは好きではない、といった表現だけしかできない、あるいはしないことが多いと思いますが、それを「言葉にする」。
(スマートフォンをみせてくださって)そのためにこんなサイトをつくりました。
私たちは、小さな子どもの時代から死ぬまで、コミュニケーションをたくさんします。もちろん1人でも良いのですが、人と分かち合うことで喜びは倍になります。そのときに、なぜ好きなのか、どう感じたのかを、五感を使って言葉で説明できるように。
私の妻は、今日、実は誕生日なのですが、今夜はそれを私たちの家族でシェアします。素晴らしいひとときは、シェアすれば喜びは何倍にもなると思うんです。
継承
それから「継承」です。
私のメゾンは1948年に祖父が創業し、父が2代目、私が今3代目です。そして今、4代目を私の息子のフランソワが継承してくれています。もうひとりの息子のヴィンセントは、私たちのチョコレートのロゴやパッケージデザインを作ってくれました。彼はアーティストです。
継承を考えると、あまり私がビッグスターになりすぎてしまうと、子どもはそれを超えるのは大変かもしれませんよね。だから私はスターじゃないんですよ、チョコレートがスターです。
また、テレビで登場したものを「テレビで見た=よいもの」と思うだけでなく、本当に良いものとは何なのか、テレビのスターが良いと言ったから良いと言うわけではなく。私はスターはプロダクトだと思うのです。つまりスターはチョコレートです。
大切にしていること
大切にしているのは、ひとつめは、ベストな原材料を使うこと。もうひとつは、トレーサビリティーを大事にすること。使ってあるものがどこから来てどんな人が作っているのかを明確にすること。3つ目にオーガニックであることも。
バリューとクオリティーをキープすること。そしてそれを続け、継承すること。これらが私にとって大切なことです。
チョコレートの思い出
私の、チョコレートに関わるいちばん最初の、最も幸せな思い出をシェアしますね。
私が10歳の時、あれは水曜日の夜でした。私の祖父の家に 泊まった朝、祖父が朝食をベッドに運んできてくれたのです。
トレーの上には、ホットチョコレート、そして真ん中にクロワッサン、そしてTinTin(タンタン)のカートゥーン(漫画)が置いてありました。
誰かが私のために、ベッドへ、朝食を持ってきてくれたんですよ!
私は、王様みたいな気分を味わってワクワクしていました。チョコレートにまつわる最初の幸せな思い出です。
『タンタンの冒険』シリーズは、1929年コミックス作家エルジェによる物語
笑顔が素敵なやさしいマークさん
さて、いかがでしたでしょうか。
背が高くて、やさしいマークさん。マークさんと話しているうちに、なぜだか日本のクルイゼルファンのみなさんの顔が浮かび、質問をきっかけに、素敵なお話を聞けました。
スターはいつもチョコレートですよ。
そんなふうに素直におっしゃるマークさんの笑顔はやさしく、ホットチョコレートを味わいながら、クロワッサンをかじり、タンタンの冒険に夢中になる、チョコレート屋さんに生まれた元気な男の子の姿が思い浮かんで、なんだか胸がいっぱいになりました。
マークさんは自らご自分の車を運転して、レストランに連れて行ってくれました。マークさんはレストランのみなさんとお友だちで、スタッフのみなさんもフレンドリー。なにもかもが美味しいレストランでした。
おいしいしお話が素敵。プレシャスな時間とはどういうことか、おいしいって総合的にどういうことか、そんなことを考えていました。私は、いつまでも話を聞いていたくてしょうがなかったです。
1月にはフランソワさんが来日予定だそうです。フランソワさんにも、またマークさんにも、次に会いするのが楽しみです。
text & photo チョコレートジャーナリスト 市川歩美