カカオ価格は下がったのに、なぜチョコは安くならないのか 市川歩美が解説ー後編 

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こんにちは。チョコレートを主なテーマに掲げるジャーナリストの市川歩美です。

「カカオショック」から抜け出した2026年。カカオの価格は従来に近い水準まで下がったにもかかわらず、店頭のチョコレート価格は依然として高止まりしています。前編では、その理由について解説しました。

後編では、チョコレート価格について、別の角度から考えてみましょう。

チョコの消費国・日本に暮らす私たちは「チョコの値段が安くなったらハッピー」と思っています。

では、私たち以外の人はどうでしょうか。同じようにハッピーなのでしょうか。そんな新たな視点をもって、読み進めていただければと思います。市川歩美による解説・後編です。

目次

チョコの向こう側にはかならずカカオ生産者がいる

カカオやチョコレートの価格を考えるとき、忘れないでほしいことがあります。それは、カカオを栽培し、収穫してくれている生産者のみなさんのことです。チョコレートには必ずカカオが入っています。チョコレートの主原料はカカオです。

カカオは赤道に近い熱帯地域でしか育たない、とても繊細な植物。カカオを育て、加工してくれる人がいなければ、私たちはチョコレートを食べることができません。

カカオの果肉(ガーナで市川歩美撮影)

カカオ栽培は重労働を伴います。カカオ関係者や有名製菓用チョコレート企業の方々と話していると、ときどきこんな言葉を耳にします。

「これまでのチョコレートが、安すぎたのではないでしょうか」

「カカオショック」の背景にある問題

「カカオショック」の背景には、カカオ生産地が抱えるさまざまな問題がありました。

引き金になったのは、気候変動や病害による不作でしたが、カカオの主要産地であるコートジボワールやガーナが抱える構造的な問題が根底にあります。

ガーナの農家のしくみついては、ぜひ私の著書「チョコレートと日本人」(早川書房・ハヤカワ新書)を読んでください。221ページあたりに詳しく書きました。ガーナへ行って取材しなくては、わからなかったことです。

カカオが安くなるデメリット

チョコ好きな消費国の私たちなら、ほとんどは「カカオの価格が下がった」→「チョコが安くなるのかも」と結びついて、喜びそうになりますよね。

逆に「カカオの価格が下がった」→「喜べない」人がいます。カカオ生産地のみなさんです。

国によってしくみは複雑ですが、基本的にカカオの価格が下がれば、カカオ生産者の収入は少なくなります。実際にはそんなに単純ではないですが、ここでは大きな構図として捉えてください。

収穫したカカオを安くしか売れなければ、カカオを育てる生産者さんは潤わない。シンプルな構図ですね。結果、カカオ農家のみなさんの生産は潤わなくなる。そして、儲からない仕事につくひとは減る傾向となるでしょう。

日本の主要なカカオ輸入国・ガーナの現状

私は、ガーナを取材しましたので、実感しています。日本から24時間以上かかりました。クマシ空港から、さらに車で何時間もかかる村です。

ガーナでカカオ栽培を生業とするご家族を取材する私。子どもも仕事をしていました。(私の後ろに薪が集められている)

出会ったカカオ生産者のみなさんは、電気も水道もない村で暮らしていました。そして、家族が一日食べていくだけで精一杯という生活でした。私たちの暮らしのように、ガスコンロや電子レンジがあるわけでは全然ないので、ごはんを作るために薪を集めて火をおこさなくてはなりません。そのために、子どもたちは森で薪を集めたり、水を汲みに行ったり。生きていくために家事の手伝いをせざるを得ないのです。

ガーナで市川歩美撮影。給食のごはんを受け取る子ども。

農家のみなさんと直接話したからこそ、問題の難しさを実感しています。歴史の中でこの仕組みが作られてきたのですし、国の問題でもある。どうにもならない気がしてやるせない思いにもなりました。それでもやはり私は思うんです。カカオの価格がさらに下がり、私たちが安くチョコレートを買えるようになることが、ガーナのカカオ生産者のみなさんためになるのか――私はそう思えずにいます。

ガーナは、日本が最も多くカカオを輸入している国。日本のチョコレートファンがお世話になっている、大切な国です。けれども、多くの生産者の暮らしは、みなさんが想像できないようなものだと思います。

<注意>これガーナの話で、南米やアジアなどは、また別の状況があります。それは機会があればまた。

ガーナ関連の市川歩美執筆記事リンク

カカオ生産地の問題を考える

「カカオショック」は大きな混乱をもたらしましたが、私は一つ、よいこともあったと感じています。

それは、私たち消費者がカカオ産地に目を向けるきっかけになったこと。これまであまり知られてこなかったカカオ産地の課題が、広く伝わりまました。

ついには、こんな問いにまで向き合うこともーー

「地球からチョコが消えてしまうかもしれない?」

それ、どこかで聞いたことがあるかも?とよぎった、チョコレートファン&関係者のみなさん。それです。私が関わり、スタジオ出演もしたNHKの番組「所さん、事件ですよ!」(2025年末放送)のサブタイトルです。

NHK「所さん!事件ですよ」より(2025年12月25日放送)

番組の裏話をしますと、タイトルを知ったとき、私は「えーちょっと煽りすぎじゃないかな」なんて思いました。でも、よくよく考えれば、可能性がゼロとは言い切れません。

カカオ生産地の環境を守ること。生産者のみなさんが人間らしい生活を送れるだけの収入、いわゆる「リビング・インカム」を実現すること。そして、児童労働や後継者問題。チョコレートのある未来を考えるとき、これらを避けては通れません。

チョコレートを食べ続けるために

そういうわけで、話を価格に戻しましょう。今、私はこう考えています。

私たちはこれまで「安ければ安いほどよい」という価値観でチョコレートを見てきたかもしれません。しかし今は、「チョコレートのある世界を未来につなぐための価格とはどのくらいか」を考え、「新しい適正価格」を探る地点に立っているのではないでしょうか。

だってです。もしカカオが世界からなくなってしまったら、高い安いもありません。チョコレートそのものが消えてしまいます。そんなの、嫌ですよね。

もうひとつ。今のチョコの価格には、将来にわたって私たちがチョコレートを食べ続けるための「チョコ維持費」のようなものが含まれている。そんなイメージもよいのではないでしょうか。

新しいチョコレートの適正価格

2026年に入って下落したカカオの国際価格。これからどうなるのかは、誰にもわかりません。

カカオの価格が1トン2000ドル台から3000ドル台にとどまり続けるかもわかりません。カカオは農作物なので、気候変動や天候不順によって収穫量が変わります。さらに、各国の情勢や投機筋の動きも価格に影響します。

もちろん、チョコたちが私たちのお財布に優しいほうがいいに決まっています。「市川さんがいろいろ解説してくれたけど、やっぱり元の価格に戻ってほしいなー」というみなさんの心の声……5才からチョコ愛好家の筋金入りですから、私にだってよーくわかります笑。

けれども、先に書いたとおりです。私たちは「チョコレートの新しい適正価格」を模索する時代に生きている。原料の価格、物流などのコスト、そしてカカオ生産者の生活、そうしたすべてを含んだ価格です。

チョコレートの価格が上がったのをきっかけに、ぜひチョコレートが私たちの手元に届くまでの長い道のりや、世界に思いを馳せてみてください。

そうすることで「チョコレートのある世界のために、適正な対価を払う」というような気持ちや、「新しい適正価格」という視点が、チョコレートが大好きなあなたの中に、新たに浮かび上がってくるのではないでしょうか。

text ジャーナリスト/チョコレートジャーナリスト 市川歩美
公式サイト:https://www.chocolatlovers.net/


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