こんにちは。チョコレートを主なテーマに掲げるジャーナリストの市川歩美です。田口愛さんの活動に実態がなかった、ということが大きな話題になっています。文春が問題をスクープ、チョコレートファンや、関係者から私に多くの連絡がありますので、簡単にまとめておきます。
田口愛さんとは
まず、田口愛さんは、どういう人とされていたか。
田口さんはアフリカ・ガーナにチョコレート工場を設立し、自ら「チョコレート工場長」と名乗り、活動。また、「ガーナからカカオ革命を起こす」というテーマでたびたび発信をしていました。（実はチョコレート業界との関わりは薄く、ショコラティエさんなどもですが、田口さんの存在自体を知らない人が多いです）
田口愛さんの活動は、各種メディアが取り上げたので、過去の発言は検索すればすぐに確認できます。NewsweekのWEB記事はすでに削除されましたが、2021年に出版された特集では「世界に貢献する日本人３０」の一人とされました。日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーも受賞しています。 （現在、これらに書かれた内容ほか、記事、受賞理由の真偽が問われています）。
日本ではチョコレートブランドの「MAAHA CHOCOLATE（マーハチョコレート)」を作り、チョコレートを販売しています。直近では、2025年2月8日放送の日テレ「オー！マイゴット！」で田口愛さんの活動が取り上げられました。
「ジャングルのチョコレート工場」販売中止
実は、私が把握しているだけで、多くのメディアが被害を受けている現状があります。ポプラ社「ジャングルのチョコレート工場」は、発売中止となりました。田口さんの話を元に著者が書いた内容が事実と異なり「田口さんの活動に実態がない」と出版社が判断したことからです。
「ジャングルとチョコレート工場の内容が嘘」との声は騒動前からあがっていました。「子どもの心への影響が心配」「嘘を読んで感動した人がかわいそう」という声もありました。私はポプラ社さんの対応に、出版社としての誠意を感じました。
田口愛さんの活動が虚偽であると情報が広がる
「田口愛さんの活動は虚偽だ」という情報は、急速に広がっています。元共同経営者で、元カカオ専門商社勤務、プロとしてカカオやチョコレート関連の仕事に携わる増田佳愛さんが、発言しました。
この情報は大きく拡散し、再生回数が350万回を超えました。
※2025年2月19日に投稿は削除（アーカイブ）されました。理由について増田さんはSNSの投稿で「慎重に進めたく、一度、リールのアーカイブとXとThreadsの投稿を削除させていただきます」としています。その後は、弁護士を通じてやりとりがなされたそうです。
田口愛さんの実態をYouTuberコレコレさんがとりあげる
また、有名YouTuberのコレコレ氏が問題視。ライブでこの話題を取り上げ、大々的に拡散。
https://www.youtube.com/live/bOVjwTTeCjQ?si=XnTSsbhJ1cwwgXYL
再生は127万回（執筆時点）を超えています。「オー！マイゴッド！」のTverやHuluの番組配信は、視聴者からクレームがあったからでしょうか、早期に削除される事態となりました。公式サイトには短い謝罪文が掲載されています。
追記：要約動画が8万回以上再生されるなど、SNSやYouTubeで情報は広がり続けています。
チョコレート工場は稼働していない
以下は、元共同経営者で、元、有名なカカオ関連商社に勤務していた増田佳愛さんによる投稿内容の一部です。
2025年02月08日
『オー！マイゴッド！私だけの神様、教えます』（日テレ）
の放送内で、田口が虚偽の発言を何度もしておりました。
私から皆様に真実を伝えたく、また、田口の商品を購入しないよう広めていただきたく、投稿をしました。
虚偽の発言内容の一部を挙げます:
・村のカカオ豆をガーナから輸入したことがないにもかかわらず、輸入したといっている。
・マーハチョコレートは村のカカオ豆から作られていない。加工品（市販）のカカオニブから作っている。
・ガーナの工場は稼働したことはない。
・番組で「ガーナの家」と話した建物は彼女の所有物ではなく、私と他の仲間たちで建てた共有スペース。
・クラウドファンディングで建てた工場は稼働したことがないので、中は空っぽ。機械も何もなく、現地で雇用もない。
（増田かなるさんの投稿より内容を抜粋）
増田さんの証言が事実なら、
・田口愛さんは、村のカカオを日本に輸入したことがない
・村のカカオを購入したことは一度もない
・村のカカオを使ってチョコレートを作って販売したことがない
・これまでに販売されたマーハチョコレートは、業務用の加工品（カカオニブ）から作られたもの
となります。
このカカオニブは、ドイツで加工されていますのでドイツ産です。（増田さんが投稿した写真によると、日本の商社が販売しているドイツで加工されたガーナ産カカオニブ）。一部商品にはカカオからでもなく、業務用チョコレート（欧州産クーベルチュール）を使っていた、という具体的な証言もあります。産地偽造となる可能性が指摘されています。
また
・番組で「渡航２ヶ月で現地の人に（自分の）家を建ててもらった」と田口さん自身が話した家は、増田さんとその仲間が建てた共有スペース、ということになります。（当初「第一チョコレート工場」と田口さんが話していた建物のことです）
田口愛さん「マーハチョコレート」クラウドファンディングの問題
今回は全国放送で発信されたため、一般の方々が田口の商品を購入してしまう可能性があります。
田口は虚偽の支援を呼びかけ、クラウドファンディングで1000万円ものお金を集めました。
これは犯罪です。
これ以上、被害者を増やさないように、私から真実を伝えなければと考え、今に至ります。
（増田かなるさんの投稿より内容抜粋）
田口愛さんが、クラウドファンディングで一般の方から一千万円以上のお金を集めたのは事実です。
田口愛さんの活動をカカオに関わる人はどうみる
私はカカオに関わる立場から、実はこれまでに何度も（特に昨年は）あらゆる方から、相談を受けています。
また、私は少なからずカカオ業界とつながっていますので、田口さんの活動、行動、発言への不信、疑問の声が以前からあがっていたことは事実といえます。騒動前から、田口さんに関するサイトや記事をメディアが削除し、百貨店をはじめとする複数の企業が独自調査を行ったうえで、取引を完全に中止しました。これも私が知る事実です。
私が各所にお答えしてきたのは、以下のような、基本的なことです。
たとえば
・基本的に、ガーナ政府が個人と交渉し、特定の村のカカオの値段交渉をしたり輸入するのは不可能（ガーナは国のカカオをすべて国が管理している）
・ガーナにはカカオに関わる法律があり、外国人の個人がガーナにチョコレート工場を建設し、特定の村のカカオを加工してチョコレートを製造、日本へ輸出・販売することはまず不可能（カカオに関わるプロなら誰もがわかる基本的なことです）
・田口愛さん自身が「19歳で単身ガーナへ渡った」「ノープランでガーナへ行ってカカオ農家に出会った」とメディアで話していますが、事実ではない。（そんな危険なことを真似する日本人が出てきたら大変な事態）
（具体的には）2018年夏に、海外インターンシップを運営する「アイセック」のプログラム３期生として学生３名が安全に出かけたのが初。これはアイセック一橋大学委員会が運営するENがガーナの農村に大学生を送り出すプログラムです。田口さんが訪れたのは、前期生の２期生が先に活動を行った村で、その２期生だったのが告発者である増田佳愛さん（旧姓高橋さん）です。ネット上に記事があるのですぐわかります。
テレビに登場した、田口さんが関わっているガーナの生産者のコフィさんは、もともと増田佳愛さんの知人なのです。田口さん以上に付き合いが長く、ふたりは状況を話しあう親しい間柄です。
そんなコフィさんが増田さんあてに送ってきた、最新の動画や画像には驚きました。「チョコレート工場の中は空っぽ」です。
ということは、（私の憶測ですが）現地のチョコレートやカカオに関わる雇用はない可能性が高いです。
田口さんは、人数を具体的にあげるなどして「雇用を産んだ」「工場がある」とクラウドファンディングの文章などで明言していました。
YouTubeなどに、田口さん本人が出演、そのような趣旨を話している動画が、まだいくつも残されています。しかし田口さん自身がアピールしてきた「村の女性にチョコレート作りをお願いし雇用を生み出す」こと、「ショコラティエの育成（トレーニング）」は不可能ではないでしょうか。機材もチョコレートも、ガーナの現地にないのですから。
田口愛さん本人からの説明はない
その後、3月25日に、増田さんはインスタグラムを投稿し、田口愛さん側のとの協議が進んだことを報告しました。
増田さんが発言をストップした理由は、増田さんによると、
「田口さんが虚偽を弁護士立ち会いの場で認めた。そのため今後、虚偽への謝罪と説明を田口さんが公式に行う。そのかわりに増田さんは今後なにも発言をしない、という弁護士を交えて結んだ合意書があるため」で、告発内容を、田口さんがおおむね認めたためです。告発内容は正しいことがわかりました。
つまり田口さんが今後、公にむけて虚偽について説明・謝罪を行うと約束し、それを実行するという条件での「和解」となったそうです。
文春が田口愛さんとマーハチョコレートの疑惑をスクープ
4月1日に、文春が田口さんの問題と疑惑をスクープしました。綿密な取材と事実に基づいています。また記者が弁護士をまじえ、多くの証拠をおさえて執筆しています。さらに大きく情報が拡散しました。
4月1日更新
週刊文春スクープ記事を公開
市販のガーナ産カカオニブと他国産カカオの製菓用チョコレートを使用
追記：
田口さん本人からの説明はありません。マーハチョコレートの公式サイトには、弁護士によるものとみられる文言があります。そこにある弁護士が文春に正式に答えた回答もまじえると、残念ながら、
田口さんが販売したすべての商品は
「ドイツで加工された、業務用のガーナ産カカオニブを買って日本で作られたもの」
「日本で製菓用チョコレート（ヨーロッパ産などのクーベルチュール）を買って溶かして使ったもの」
「業務用チョコレートはガーナ産カカオではないもの（アジアなど）や産地が不明なものも使われていた」
という事実がわかりました。つまり、田口さん本人がメディアで何度もくりかえしアピールしてきた「チョコレート工場」は「空っぽの建物」で、村のカカオは商品に使われていません。
現時点で「（メディアに登場する）村のカカオを購入したことが一度もない」「それを使用したチョコレートを製造・販売したことはない」「工場、と話してきた建物は今も空っぽ。稼働したことがない」ことは明確になりました。しかし、それについての説明はありません。
チョコレートの正しい情報が伝わることを願って
ガーナは、チョコレート愛好家が、最も恩恵を受けている国のひとつです。
私は、みなさんがガーナのカカオ産地を支援したいと考えること、同時に正しい情報に基づき、誠実に活動する人を応援したいと思うのは、自然なことだと考えます。
誠実で良い活動のもとに作られたチョコレートを購入したい、と思うのも当然のことですね。
一方で、私はガーナの遠さを知っているだけに、メディアがガーナのカカオ産地まで足を運び、真実を直接確認するのは簡単ではないこともわかります。しかしコンプライアンスの問題があります。
私は放送局出身で、今もメディアに関わっているので、誠実なメディア関係の方のご質問には、状況を伺ったうえでお答えしています。田口さんを起用した多くの企業は田口さんに出演料や講演料を支払っており、お金を寄付した方、商品を購入した方も被害を被っています。（事実を確かめるために、田口さんに連絡していますが、いまだに返答はありません）
メディア・企業のみなさまへ
チョコレートやカカオに関する情報を専門に扱う立場、またメディアに身を置く者として、より正確な検証や確認が必要な場合はご協力します。メディアや企業が誤った情報を発信することは、想像以上に多くの人を傷つけ、被害を広げるからです。
残念ながらすでに多くのメディアや企業が「田口さんを信じてしまった。しかし本人の話（書いていたこと）は事実ではなかった」と後で知って傷つき、被害を受けています。「なぜそこまでの嘘をつくのか」「演出と話がうまくて信じ込んでしまった」「だまされた」などと話しています。金銭的にも心理的にもダメージを受けた企業や関係者が、大勢いるのです。
ジャーナリストとして自戒をこめていますが、取材対象は事実を話す人ばかりではありません。「欲しいものを手にいれるためにはどんな嘘でもつく人」に、私は何度か出会っています。プロなら相手に舞い上がることなく、同情を誘うような振る舞いや印象操作に惑わされず、冷静に信頼できる別のソースから裏をとる必要があります。誤った発信は、良心ある人々を傷つけ、やがては発信者自身の心も深く傷つく――その痛々しい現実を、今もなお届くリアルな声から痛感します。
最新の情報（7月末）：田口さんがたびたびメディアに登場させたカカオ生産者のコフィさんは、現在体調を崩して入院しています。あらゆる対応は困難とのこと。（コフィさんと親しい増田さんによる）
この事態はメディア、そして企業、すべての情報の受け取り手に関わる問題です。カカオの国の確かな情報がチョコレートファンの皆さんに届くことを心から願いつつ、新たな事実がわかり次第、関心のある方々にはお伝えします。
text ジャーナリスト 市川歩美
私の著書「チョコレートと日本人」（ハヤカワ新書）には、私のカカオ生産国への思いを込めました。カカオ生産国で誠実に活動する人々のインタビューを大きく掲載しています。日本人としてカカオ産地支援へ向き合う際の参考にしてください。
